「はい、300円のお戻しです」
一瞬で紙切れになった宝くじをポケットにねじ込む。
分かっちゃいるけど、今回は当たる気がしてたんだよなぁ・・・。
そんな思いもポケットにねじ込み、次の得意先へ向かう。
中堅の医薬品メーカー営業職、佐々木英輔35歳。
小学校1年生と幼稚園の子どもを抱える、4人家族の大黒柱だ。

会社に戻れば、今日も営業会議が待っている。
ここ数年の右肩下がりの売り上げをいかに回復するか。
「会議ばかり増える会社は危険信号なんだってよ」
同僚がボヤいていたが、昨年のリストラ敢行を考えると、
ただのジョークとも聞こえない。
「ここで生き残っても、今後退職金が出るかどうか」
そう言い残して先輩が辞めたのは先月の話だ。

子どもの学費、住宅ローン、
ボーナスをあてにしていたライフプランも
大幅に見直し、貯蓄はほぼゼロになった。
「私たちの老後ってどうなっちゃうのかな?」
幸せな老夫婦の番組を見ながらポツリともらした妻の不安に、
俺は冗談の一つも返せなかった。

「俺は、俺と彼女の老後を守れるんだろうか」
しわくちゃになった夢のかけらを取り出して
ため息をついたら、同僚の石田から声をかけられた。
「おい、飲みに行こうぜ、営業会議の口直しだ」
「すまん、どうも懐が乏しくてね」
石田とは結婚当初から家族ぐるみの付き合いだ。
こいつは子どもを送り出した先々のことを
どう考えているんだろう?

「石田、お前老後のことって考えてる?」
「なんだよ突然。俺は考えてないけど嫁が考えて手を打ってるよ」
手を打つ? 何か手があるのか?
「そうか、株式投資。お前の嫁さん元ディーラーだったな」
「いや、いま株はプロでも危ういらしい。
嫁が始めたのは不動産投資だよ」
不動産投資? 石田は俺とほぼ同じ年収400万前後のはずだ。
それなのになぜ・・・。

「お前、そんなに資産家だったか」
驚く俺を、石田は軽く鼻で笑った。
「佐々木。いつの時代の話をしてるんだよ」
石田によれば、いまは俺たちサラリーマンでも
先々の副収入源として不動産投資ができる時代らしい。
例えば石田の場合、マンション一室の大家業で
定期収入を得ている。
家賃は14万円。月々のローンを引けばわずかだが、
20年後にローンを完済すれば、まるまる副収入になる

「不動産投資にも利回りがあってな、嫁はもちろん初心者だけど、
そのあたりを親切に教えてもらって投資に踏み切ったらしい。
将来はもう一室を経営して、月々の収入を28万円に増やす予定なんだ」
そうか、不動産投資か。
「それ、どこに行けば教えてくれるんだ?」
ええっと確か、と言って石田は名刺を取り出した。
・・・ジェーガイアか。
無料相談会もやっているらしいから、試しに行ってみるといい」
そうだな。決してハデじゃないが、手堅くコツコツというところがいい。